[福島祭り歳時記 作者のページ 私の本棚 このページは私個人の読後感を書いたもので、けして宣伝ではありません。装丁及び価格等のデータは購入時のものであり、現在は異なることもあります]

私 の 本 棚

15年4月の読了

 愛をテーマにした短編8作。特に印象深い2点ご紹介。小説はフィクションですが、全く架空の生き物を登場させた巻頭の作品「シエ 「SIE:X」。とあるペットショップに預けられた「シエ SIE:X」という動物を飼う事になった女性。シエは「不幸」と言う餌をたべながら生きていく動物。主人公の不幸を食べ尽くしたあと、シエは満足そうに死んでいきます。架空の動物を登場させたメルヘンチックな作品。

巻末の「永遠の緑」府中競馬場に毎週かよう大学の助教授の話。競馬について書かせたら当世随一の著者の実体験かと思わせる作品。カブラヤオーに賭けて実った愛と娘が飼う猫「オグリ」。競馬ファンならずともほほえんでしまうような設定でストーリーは展開され、意外な結末が微笑みをもたらします。どちらの作品にも愛猫家の著者ならでは、猫のかわいらしい描写が心にしみました。(4/30)

姫 椿

浅田 次郎 著

文芸春秋

\1500

 危機管理の第一人者の著者が、戦前の小学生を描いた前著「6男2組」に続き、著者の実体験に基づく東京大空襲や九州大学教授であった父に対する治安警察「特高」の思想弾圧や佐々成房を先祖にもつ佐々家の戦前の家庭教育や、小学校の恩師「伊藤先生」の教育について、戦前の日本人の心と生活がどの様なものであったが分かります。戦争末期の東京の姿を中心に小学生の目とは思えない視点から戦争を見ていて大変面白く読みました。(4/22)

戦時少年 佐々淳行

佐々 淳行 著

文春文書

\562

 マレーシアの密林から旧日本陸軍の兵が発見されたが、日本国内では小野田少尉や横井軍曹が発見された時とは違って、マスコミの取り上げ方は小さなものであった。台湾高砂族出身の「中村輝夫」は日本の統治により日本語の教育と日本名を名乗り、日本軍属として戦争の最前線で戦った。終戦を知らず30年間ジャングルでの生活を続け日本人として発見されるが、故国台湾は既に日本ではない。日本に帰らず故郷台湾に戻ったかれがみたのは、中国人として生きる妻と子供でった。高砂族「中村輝夫」を通じて、植民地としての台湾と統治国であった日本を対峙し、日本人と高砂の人々との熱い繋がりを書いた、興味深い内容の著書です。(4/21)

還ってきた台湾人日本兵

川崎 眞澄 著

文春新書

¥690

 会津若松では「戦争」と言うと、大東亜戦争(第2次世界大戦)の事でなく会津戊辰戦争を指すのだそうです。長州藩(山口県萩)に対する怨念は、現在でも市長同士が同じテーブルに坐らないと言うくらいでで、100年以上経って怨念として存在します。著者はこの怨念の原因を歴史的事実から明らかにしていきます。長州と会津の関係を文久の変、蛤門の変、代一次征長、第二次征長などについて関係を明らかにし、更に怨念の深層を(1)戦後の削封の問題(2)斗南転封について(3)戦後の死体処理の問題について(4)靖国神社合祀について。以上の見地から深層を明らかにし、各問題について一方的に長州藩が会津を憎んで行った事でないことを記しています。元若松市長の「会津と長州は仲直りはできないが、仲良くできる」と発言したことを紹介したり、明治維新が歴史の順風に載ってうごいた薩摩・長州と、逆風に逆らった会津の巨大なエネルギーによってなされたとし、両方の今後の良い関係を望むとまとめています。(4/13)

戊辰怨念の深層

畑 敬之助 著

歴史春秋

¥1200

 再再読。初めて読んだのは多分20代の大学生の頃か。2度目は30代であろう。多分渡辺純一の「落日燃ゆ。」のあとに読んだ覚えがあります。3度目の読書になるが、先日本棚をみたらなんとカバーのついたままの本書があった。と言うことは同じ本を4回も買ったことになる。今回も先月の野口英世伝のあとの読了である。星製薬社長「星一」は明治時代のある時期ニューヨークで同じ福島県出身の野口と苦学生活を送る。帰国して実業界に身を投じた星は後藤新平の知己を得て、モルヒネや阿片の生成の研究製造を行い、当時としては画期的な特約店方式の独自の販売法を取り急成長していくが、当時の内務省や、後藤新平の政敵等によって内務省や台湾総督府の役人や、検事、警察、更には銀行らによる言われ無き妨害を受け、ついには事情継続を断念させられてしまう。明治大正期の製薬事情や台湾総督府などの記述が、、詳しくえがかれています。モデルの「星 一」は著者の父である。(4/5)

人民は弱し官吏は強し

星 新一 著

新潮文庫

¥483

 短編集5編。「あじさい心中」「死に賃」「奈落」「佳人」「ひなまつり」「薔薇盗人」の5編。「あじさい心中」はリストラされたカメラマンと場末のストリップ嬢「りりーさん」の話。どうもこの話のシッエーションは飯坂温泉がモデルのよう。心やすらかに「死」を提供する会社の話「死に賃」。エレベーターのホールに転落する男の話「奈落」。有能な独身の部下に見合いの話を持ってきた母親と部下の恋の話し「佳人」。1まわりづつ違いのホステスと、となりに住むお兄さんと娘の恋の話し「ひなまつり」。そしてまるで外国の短編小説を読んでいるかのような設定の「薔薇盗人」。どれも素晴らしい短編です。中でも「あじさい心中」「死に賃」「ひなまつり」は欠けた家族の悲しみを描いた浅田ワールド。そして表題作「薔薇盗人」は、外国航路の船長である父に出す手紙で綴った作品。解説で作者と深い因縁で結びつく三島由紀夫との関係を明らかにした作品であることが分かります。わたし的には「あじさい心中」「佳人」「ひなまつり」「薔薇盗人」が好き、中でも「薔薇盗人」は秀逸だと思います。(4/1)

薔薇盗人

浅田 次郎 著

新潮文庫

¥514


SITE MAP へ

福島祭歳時記 TOP へ